……ぶっちゃけ、これがやりたかっ……ゲホゲホ。
☆★☆海で激戦?を繰り広げた翌日★☆★
ふぇーーっくし!!!!
学生アパートに響く盛大なくしゃみ。
「寒……もう駄目…みたいな」
真面目に授業を受ける訳でもない癖に日々とりあえず制服で出掛けるいずなだが…今日は何やら様子が違う。
パジャマのままで、赤らんだ顔をして、ベッドから動けないようだ。
常人が見れば、中学生の独り暮らし、しかし霊感のある者ならば部屋をうごめく薄黄色の生き物、管狐達が不安と心配で一杯の顔付きをしているのが見てとれただろう。
「お前達…ごめんね。朝御飯、ちょっと待って……」
独り暮らしで病気になる。これは中々厳しい状況だ。
誰一人、介抱してくれる人がいないどころか、この、隣人に注意を払う事の少ない現代に於いては、発熱しようが嘔吐しようが、誰も気付いてくれないのだ。故に、自分で動けなければ医者にもかかれず、薬も手に入らない。
「……気持悪い」
弱りすぎてギャル語もなりを潜めている様子。管狐達の中に癒しや炊事能力のある者がいれば多少事態は好転するのだが、残念ながらそうはいかなかった。
一方、陽も落ちてから冬の海にミニスカ女子中学生を放り込むという鬼畜っぷりを発揮し、その後遊んであげ?て、いずなが風邪をひく原因になった医者はと言いますと、元気に病院で働いておりました。鬼ではないけど畜生だからかは知りませんが、罪悪感のざの字もない感じです。
にゅーん。
あ、何やら薄黄色いものが窓から入って来ましたよ。しかしそれは彼にしか見えていないようです。用を足しに行くふりをして看護師をふりきり、誰もいない廊下にて、玉藻は後をついてきた管狐に問います。
「何か用か?」
事情を説明する管狐。朝抜きなのでちょっと飢えた感じです。
「……可哀想に。すぐにでも行ってやりたいが、まだ仕事が終らないのだ。戻って待っていろ」
珍しく、心から同情した様子の玉藻。
ちなみに、「可哀想に」の主語は管狐達です。
そして、玉藻先生は恐ろしい勢いで本日の手術を済ませ、驚愕の手際良さで荷物をまとめて帰路についたのだとか。
喉乾いたな…動かなきゃ……管狐に餌あげないと……。
朦朧とする意識の中、いずなは鍵が独りでに動く様な、そんな音を聞いた。
「……?」
何、この邪悪な気……ヤバい。今、襲ってこられたらひとたまりもない!
嫌だ、近付いてる……来ないでっ!
ベッドの中で身を固くするいずな、その耳に声が届いた。
「おや、鍵を開けたままにしているようですね」
ん?
「無用心だなぁ~」
「彼女には私からしっかり言っておきますよ。どうも、ありがとうございます」
「私からも、お大事にねと伝えてあげて下さいねぇ」
片方は、管理人の声。
そしていかにも人が良さそうに話すもう片方は……!!
パタンと言う音の後で現れたのは玉藻。
「ぶっ……」
起き上がって睨みつけてやるはずが、腕から力が抜けた。
「何をしている?」
目の前で枕に顔をダイブさせたいずなを、呆れた様な目が見ている。
「あんたこそ……何しにきたのさって感じ……」
「管狐の世話だ。餌もやっていない様だな」
「へ……」
驚いたいずなは目を丸くしています。
まさか性悪狐がそんな理由で来るとは思いませんからね。
「……あ、ありがと」
布団にちょっと潜りながら、ごく小さい声で言い、玉藻の動きを目で追います。
でも、世話って言ってもうちに来た事ないのに、どうするんだろう。
見ていると、玉藻が小ぶりな水晶玉を取り出しました。
「水晶玉よ、この部屋の過去を……」
ブンッ!
いずな、残った力を振り絞って目覚ましを投げました。
「何をする!」
「それは私の台詞だよ!ケホッ……この変態覗き野郎!」
「何だと?」
「私の着替えとか……見るつもりだったんだろっ」
「……?」
後ろを振り返る玉藻。
「馬鹿っ!あんたよあんた!」
「私は単に、こいつらに貴様がどういう世話をしているか聞くのが面倒だっただけだ」
「台所にある器に、冷蔵庫の中の味噌を盛って床に置く!」
「彼等は浮いているのだからわざわざ床に置かずとも良かろう」
「うるさいなっ、コホッ……もう、私は寝るんだから、餌あげたら出ていってよね」
いずなは眉間に皺を寄せて壁の方を向いてしまった。
背後で喜ぶ管狐の声等の物音を聞きながら、いずなは早く眠ってしまおうと、丸くなって目を閉じた。
寒いな、騒いだら、何か余計疲れてきたみたい……。
聞こえてくる物音から、管狐の食事も終ったのが判った。
あいつももう帰る頃かな。
いずなが小さく、未だ熱を帯た溜め息を吐いた時、何かがぱさっと後頭部をめがけて飛んで来たのだ。
「うわっ!?」
慌てて飛び起きようとするのだが頭が持ち上がらなかった。
「まだ熱があるようだな」
それもそのはず、ただでさえも力尽き気味なのに額を押さえられているのでは起き上がりようがない。
「だって……風邪だもん…」
「聞けばお前も朝から何も食べていないらしいな」
「……だから、何さ」
「それ、管狐のついでにお前にも餌だ」
『餌』かよ、とかなりカチンと来たものの、食事ができるのはありがたかった。でも、ムカつくから礼は言わない。
「後、薬……単なるビタミン剤だが一応食後に飲めとあるから食後に飲め」
え?
「水はこの辺りに置いておくぞ、暴れてこぼさぬよう注意しろ」
どうしよう。ありがとって、言っとけば良かった。
布団の中でもぞもぞと寝返りをうち、玉藻の方を向いて、いずなは心の中で礼を言ってみた。
すると性悪狐は何やら複雑な顔をしながら言った。
「お前……は、昨日は元気だったように思ったのだが……」
「?寒くなったのは昨日帰って来てからみたいな感じ」
「…………ιでは……私のせい……か」
「え?」
一部、非常に小さく呟いた玉藻。
暫く考えるように眉を寄せていたが、微妙に目を逸らしながらまた口を開く。
「予定変更だ。看病してやるからさっさと治せ」
「え……良いの?」
熱で潤んだ目を真ん丸にしているいずなに、玉藻は何も答えない。
「じゃあ…ティッシュ取って?」
どうやらこの妖狐様は主人を助けてくれるらしいと勘付いて、擦り寄る管狐に「馴れ馴れしいぞ」等と言って追い払う以外はほぼ無言でいずなの世話を焼く玉藻。しかも何の意地悪もしない。妙な光景である。
そして不意に玉藻が誰にともなく呟いた。
「……さすがにこれでは30倍で済まないからな」
その後には、人間の体とは妙に弱くて困る…そんな呟きが続いた。
その頃既にうとうととしていた、いずなは「ああ、そういう事か」とぼんやりと納得し、眠りについたのだった。
☆★☆放り投げた事には何の疑問も無いが、風邪を引かせたのは流石にちょっと悪かったかな?と思った玉たんでした★☆★
オマケ
寝てしまったいずなをツンとつついた玉藻。
考えていることは『何故、今日はこの小娘がこんなにも加虐衝動を煽るのか……』
答えは簡単、ゲドの世話ん時に着ていたにわとりパジャマだから(加虐ってか食欲をそそってます/笑)
でも一応、世話焼き中は我慢してたんですね。
あい、ちょっと怯えるいずなが書けてちょっと嬉しいクェでした。
何ていうか、いずなが翌朝元気になってたら、玄関から堂々と帰るなと大騒ぎしそうですね。管理人さんは親戚か何かと勘違いしたか騙されているので寧ろ堂々と玄関から帰らなかったらあの人どうしたの?と悩みかねませんが。
つか、一日姿を見ないからと心配した友達に見られて大誤解とかもありそうな…。