いつか分からないけど座標的には童守町の話。
☆★☆絶え間なく永遠を、時計が刻むなら★☆★
雑踏を歩く黒々とした髪の青年……平均より遥かに太い眉を持つ彼は友人との待ち合わせ場所へ向けて歩いていた。
近年若者達の間で流行の小型情報端末を弄っていた彼が不意に視線を上げた先には、どこか古典的な顔立ちの美男がいた。
彼には男色の趣味はないが故に、目の前に現れた男の美しさなどは特に注目するに値しない情報だ。青年は再び端末に視線を戻す。
「…………鵺野、先生!」
「え?」
その金の髪の男はただ横をすり抜ける以外に何の関わりも持たずに、いずれは彼の意識から完全に出て行くはずだった。全く知らない人なのだから。
「あ、の……ι何ですか」
「……ああ、失礼。知人と、似ていたもので」
唐突に青年の肩を掴んだ男は、縦に長い割に線の細い男だが、思いの他力が強い。青年は思わず太い眉を寄せて、相手に抗議の目を向けた。
幸い、人違い男はすぐに手を離した。しかし、今、青年と一歩分程の距離をおいて立つこの男は、最初こんなにも寂しげな色を纏っていただろうか。
何かが青年の心に引掛かった。
「あの…ヌエノ先生?ってそんなに…」
「本当に、私とした事が……ご迷惑をおかけしましたね。それでは、また何処かで」
青年が遠慮がちに問い掛けようとすると、男はいかにも人から好かれそうな、爽やかな笑顔を浮かべて横をすり抜けて行った。多少気障な仕草も様になっている……一度でも会った事があればきっと記憶の何処かに残っただろう。
しかし実際はちょっと人違いをしただけの知らない人同士、当たり障りのない短い交流の後はそうするのが普通だ。「また何処かで」会う時には彼がこの平凡な青年を覚えているかあやしい。
「あ……待って!あの……え?」
青年が振り返った先に、男はいなかった。
いや、正確にはいたのだが、青年には見えなかったのだ。
背後に青年の声を聞きながらも、男は足を止める事はなく、振り返りもせずに心の中、今は亡き者に語りかけていた。
鵺野先生、私は強くなったんですよ。とても……ね。
今の貴方は素質はあっても、私の正体を怪しむ事さえしなかった。…まあ、もし当時のままの、鬼の左手の貴方がそこにいたとしても、見抜けるとは思いませんが……。
彼が歩調を緩めずに進むと、ちょうど、20世紀末の学校制で言う小学校高学年位の少年が横を走り抜けた。
男の顔に自嘲的な笑みが浮かぶ。
フッ…今なら、生徒を人質に取って貴方を怒らせたとしても、勝てる自信がありますよ。
貴方の霊力が無限に高まるとしても、私の力を超えるにはあまりに時間がかかりますからね。
それまでに手折ってしまえば問題ない……。
彼が溜め息と共に口許に小さく回顧の笑みを、浮べた時、少し距離を明けたモニュメントの下から彼の名を呼ぶ声がした。
「玉藻様~っ!三時って言ったじゃないですかι」
「ああ、すまん。あの小学校、今度歴史的建造物に認定されるそうでな。観光地になる前に少し見に行っていたんだ」
「旧童守小学校ですか?」
「ああ……で、石蕗丸、子供役が必要なのだったか」
「はい……あの~まさかそのままで……なさるおつもりでは…………」
「冗談はよせ。これでは幾つの時の子になるんだ」
彼が四百歳であった頃そのままの姿で玉藻が、耳も尻尾も何処かへやって、まるで別物の石蕗丸に笑う。
石蕗丸が口を尖らせる頃には、玉藻のいた場所に愛くるしい少年。
「さて、行くぞ」
「玉藻様、やっぱり半ズボンの方が愛らしいですよ。それに、もう少し物言いも幼くしてくださらないと……」
「うるさい……。それに、まだ二人きりなんだから、別に構わないだろう?」
「そうやって油断なさるのは玉藻様の悪い癖です!」
「……可愛くない石蕗丸なぞ知らん」
「ああっ!玉藻様、もう追いかけっこするような時間はないんですってば~!」
「子供に様をつける奴があるか。ふふ、捕まえるまで協力してやらないからな」
「良いじゃないですかどうせ誰も見てないんだから!もう、意地悪しないで下さいっ」
駅前でバタバタと追いかけっこに興ずる美くしい青年と少年、十二分に人目を引くであろう彼らに振り向く者はいなかった。
そして、渦をまく邪悪な気にも、誰も気付かなかった。
「……あの人、この辺りにいるような気がしたんだけどな」
先程の青年が、背伸び気味に左右を見渡していた。
「そりゃあっ!!ぶっ……!!痛たた……」
「ふっ、……そろそろ行くか、石蕗丸」
「え?あ、はい!」
顔面スライディングの末に膝をついたスーツの美声年、その向こうにキョロキョロとする黒髪の青年を見て、少年は静かに、口の端に笑みを浮べた。
「また、何処かで、ね」
☆★☆心を惑わす時のミステリーは、誰にも解けない青いメビウス★☆★
いつもと毛色が違う感じですが…伏せまくってもカテゴリーをぬ~べ~にしたらバレッバレですね。
玉藻の外見に関しては感傷に浸る時に『当時』の格好位するかなって事で……。
後、石蕗丸は中身に関しては良くも悪くも玉藻似に育って欲しいとか二人がずっと仲良しだと良いとか色々籠ってまふ。
ところで、タイムレンジャーネタ分かる人って何人位いるんだろう(笑)(せめて電王にしてあげてっ!!)
[0回]
PR