バレンタイン同居ネタの続きって感じですね。
何とか四月にならずに済みました。
☆★☆時は3/14★☆★
その日、朝っぱらから、玉藻はニコニコニコニコしていた。
「鵺野先生っv」
「…な、何だよ」
「今日は何の日でしょうか?」
「え?何かあったか?」
ホワイトデイ、それは鵺野鳴介の生活に関係ない事この上ない日であった。
故に、聞かれてパッと出てこない。
そして、その対極であるひと…今日は大変な一日になるであろう玉藻はちゃんと覚えているようだ。
「ホワイトデイですよ!ほら、バレンタインのお返しする日なんでしょう?」
あの後、ちゃんと調べたんですよとちょっと得意気な玉藻に向けられたぬ~べ~の目は冷めたものだった。
「…はいはい、よくできまちたー」
もてない教員は、着替ながらケッとでも言わんばかりであります。
もってもての医者は、普段なら怒ったであろうぬ~べ~のヤル気の無い反応にも笑顔を崩さない。
「だから先生、私、ちゃんとお返ししますね」
ぎゅっ、もてる男の顔なんか見たくないと言いたげに背を向けたぬ~べ~の肩を掴んで振り向かせ、玉藻はよくわからない宣言をした。
「ふーん。沢山貰ってたもんな…でも、何で俺に言うんだよ」
先月のキレ様を頭に浮かべつつ、ぬ~べ~は玉藻を心底つまらなさそうに見る。
「鵺野先生にお返しするからですよ」
当然でしょう?とでも言いたげに、玉藻は首を傾げた。
「俺は何もあげてないだろ?看護師さんとかにお返しするのが筋じゃないか」
「では動物霊でも送りつけましょうか?それとも毛束ですか?」
「……ι」
髪を摘んで見せた玉藻の笑顔に黒いものが混じるのを見て、ぬ~べ~の顔がこわばる。
「…今のは、忘れてくれ」
「はい。それでお返しですが…今日、明日、明後日と鵺野先生の事を全力で守ってあげます!三倍返しするものなんでしょう?」
「はぁっ!?何だそりゃ!?」
意外にさらっと黒い考えを捨てた玉藻の返答は意味不明。
「あ、ついでに貴方の生徒も守ってあげますよ」
追加事項もまた意味不明。
「玉ちゃん?病院はどうすんの?」
「その辺りは気にしないで下さい。誤魔化すのは得意です」
つまり、サボる気満々。完璧!と言わんばかりの笑顔でぬ~べ~を見ています。
「嬉しいですか?」
「ええいキラキラした目で見るな馬鹿っ!ありとあらゆる意味でとりあえず病院行ってこいっ!後、顔近いからっ!!」
「はぁではまずこっくりさんの準備を…」
「それはしなくていいのっ!…それに、別にお前に守ってもらわなくても、鬼の手使った上にお前に手伝ってもらわなきゃいけないような強敵は滅多に出ないぞ」
ぬ~べ~はさりげなく大接近している玉藻を押してひっぺがす。
「でも、私がいたら狐の妖怪との争いは大体避けられるし、それなりに頭のある弱い妖怪は襲って来ないですよ。格の違いも判らない馬鹿は…来ますけどそんなのは追い払うより殺す方が簡単な位ですし」
「お前がそんな事をする必要はないだろ?何かしてくれるつもりだったら、俺が怪我したら病院行くから、治してくれればそれで良いって」
それを聞いて玉藻はいかにも不満であるという表情を浮かべた。
「…それじゃあいつもと変わらないじゃないですか。私はあの日、先生がかばってくれて嬉しかったから、そのお返しに…ありがとう…と言うかわりに…」
「……」
尻すぼみになっていく声量に反比例して、玉藻の頬に朱がさすのを見て、ぬ~べ~はあんぐりと口を開けた。
そんなに、嬉しかったのか!?
「……」
「鵺野先生、私の考えたお返しは駄目ですか?」
……あの時、俺は結構恥ずかしかったなぁ……。
2/14を思い出しながらぬ~べ~は心の中で呟いた。
そしてニヤリと笑った。
俺も『お返し』するか。
「玉ちゃんv俺は今のもう三回言ってくれた方が嬉しい」
「え……」
にやーっとするぬ~べ~。
お返しと言うより、照れ臭い事を言うはめになった事の仕返しである。
感謝の言葉と言うものは、言うタイミングを逃すと非常にきまりが悪いものであるのは妖狐にとっても同じらしく、玉藻は困ったように視線をさ迷わせている。
「ほら、早く言ってくれないと遅刻するじゃないか♪」
その言葉の後、口を開こうとしてやめた玉藻はうつ向いて、深く息を吸った。
「鵺野先生、私の考えたお返しは駄目ですか?鵺野先生、私の考えたお返しは駄目ですか?鵺野先生、私の考えたお返しは駄目ですかっ?」
起きがけとは一転、ムスッとした顔で一気呵成に、感謝のかの字どころかkaのkさえも感じさせない目つきで、玉藻は同じ言葉を繰り返した。
「言いました。お礼完了です。鵺野先生なんかもう嫌いです。病院行って来ます」
続く言葉も早口で、それこそケッとでも言わんばかりである。
そしてバサッと白い上着を手に玉藻は部屋を出んと玄関に向かう。
「ム…それじゃないっつーの!」
「ああ、そうだ、鵺野先生」
ピタリ。玉藻が立ち止まり肩越しに振り返る。
「もし貴方が今日怪我をして病院に来たら…フフフ、ちゃーんと、治してあげます。私は医者ですからね」
「え?ああ、ありがとう」
明らかに善意で言っていないのがわかる笑みを向けられ、今度は何を言い出すかと構えていたぬ~べ~はきょとんとした後、引きつった顔で固まった。
次に続いた言葉が酷かったからだ。
そして叫んだ。
後、土下座した。
「申し訳ありませんでしたーーーっ!!!!」
ちなみに玉藻が言った言葉。
『保険証を焼き払ってから要らない検査を山程してさしあげます。化膿予防に抗生物質も出しましょうね。まだ月の半ばですし…お給料無くなってはいないでしょう?』
平たく言うと、保険使えなくした上で治療費水増ししてやるから覚悟しやがれ、という事である。
「フッ、謝罪は無駄です。我々妖狐は嫌いな人の声は聞こえないようになっているのでね」
靴をはく玉藻の台詞はあからさまに嘘である。
「ぬぐっ…聞こえてるじゃないか!」
「聞こえません」
「嘘つけ!」
パタン。
会話を続けながらも着々と靴をはいていた玉藻の姿はドアの向こうに消えた。
「…やっぱ守って、玉ちゃん」
万一さっきの言葉を実行されたら…そう思うと血の気が引いてきたぬ~べ~は既に閉じた扉に小声で言った。
「ぷっ」
扉が笑った。
ぬ~べ~は瞬時に狐に抓まれた事を悟った。
幻視の術だ。
「最初から素直に頷けば良いのに♪」
口角を上げて肩を小刻に震わせて…さっきまで扉に見えていた玉藻が笑う。
「この野郎っ!!」
靴をつっかけ、右手を振り上げて、ぬ~べ~が飛びかかった。
「あはは、そんなに殴りたければまず捕まえてご覧なさい」
それをヒラリかわして駆け出す玉藻。
「待て~~っ!!!!」
もちろん、玉藻先生が逃げ込んだ先は小学校。ぬ~べ~先生は一日中くっつきまわされたそうな。
☆★☆流石に三日はやらなかった辺りがきっと玉藻先生の大人げです★☆★
はぁ~ギリギリセーフ(^_^;)
☆★☆「ぷっ」以降分岐★☆★
「ぷっ」
笑った扉に間髪入れずにぬ~べ~が蹴りを放った。
「おっと危ない」
「た~ま~も~!人をからかうのもいい加減にしろっ!」
怒鳴るぬ~べ~にやれやれ、と玉藻は肩をすくめる。
「全く、近所迷惑な人だ。ここ、ペット禁止なんですよ?」
「誰がペットだ誰がっ!!」
「喧嘩をしていてはうるさくて仕方ないですね。仲直りの印にさっきのお願いを聞いてあげましょう」
「してくれんで結構だっ!」
地団駄踏むぬ~べ~の顎に玉藻の指がかかった。
「!?」
いや、仲直りの印にしてはやりすぎだろ。
何か急にキスされた…そんな現実からの逃避のあまり心で現状に第三者的に突っ込むぬ~べ~。
しかし妙な感覚で現実に引き戻される。
その感覚を擬態語で表すならモシャモシャ。
毛玉?
「じゃあ先生、いってきます!それ、捨てたら嫌ですよ~」
口から唾液まみれのモシャモシャを引きずり出して嫌悪感たっぷりな顔をしているぬ~べ~に、御機嫌な様子で手を振って玉藻は今度こそ本当に出勤した。
「…これが…狐玉」
ちょっとベトベトして気持悪い黄金色のモシャモシャした球体を嫌そうに掌に載せたぬ~べ~は呟いた。
目の前で妖狐が吐き出したんだ…
「確かに霊験あらたかだろうが…」
凄く嫌だ…。
「でも、お守りにしろって事なんだろうなぁ…」
どんよりしている間に遅刻が確定したぬ~べ~の今の気持ちを表すのに最適な文字列は「orz」
捨てたらバレそうなのでティッシュにその毛玉をくるんでポケットにしまい、肩を落としながらぬ~べ~も出勤した。
☆★☆Theありがた迷惑★☆★
何か、キツネの生態についてネットを探していたら狐の伝承に行き当たりまして…何か、吐くらしいですよ。
で、古文の中の人物達はありがたがっていたらしいですよ。
どう読んでも毛玉としか読み取れない代物だったらしいですが(笑)
雀やなんかも吐いた描写があったらしいですが、ありがたがられ方が狐は別格だったとか(同じようなもんだろ/笑)
生物としてのキツネの話じゃなさげだったんで飛ばし読みな上に、一サイトしか見てない為、信憑性は何とも言えませんが何かおもろかったので吐かせてみた(爆)
神秘性を除いたら、毛づくろいの末に出来た毛玉なんじゃないかな?
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