昨日は同居じゃない感じだったので今回は同居ネタで。
時間設定は童守病院に就職一年目です。
☆★☆玉さん、ヴァレンタインに関する大誤解★☆★
その日、病院から帰ってきた玉藻の機嫌ときたら最悪だった。
窓から見えた運転や、廊下を歩く足音等は至って普通だったが、溜息と共に閉められた玄関のドアは壊れかけるし、眉間には皺が寄りっぱなしだし、何かブツブツ言っている。
放り投げられた紙袋からはチョコレートらしき包みが散乱したままだ。
「……玉藻?どうした~?」
落ち着かないので声をかけたぬ~べ~は思い切り睨まれた。
「……玉ちゃ~ん?」
はいゴメンなさい、この呼び方は嫌いでしたね。
ぬ~べ~は更に酷い鋭くなった視線に突き刺されることになった。
とりあえず、うろうろするのぐらいは止めさせられないものか……。あからさまにイライラした様子の玉藻を見ながら、ぬ~べ~は苦笑いした。
落ち着くまで放っておくか、それとも宥めるか……。
そんな事を考えていたのだが、同じ部屋にいる相手を放置するのは難しかった。
「たーまーも!」
ぬ~べ~はていっ!と勢いをつけて後ろから首に抱き着いてみた。抱きつくというよりは肩に体重をかけて拘束する目的が濃かったが、羽交い絞めにするのではその意図が明らかになりすぎて余計に怒らせるだけだ。
「……」
「お帰り。とりあえず座ったらどうだ?」
「……放せ」
腕は振り払われたものの、ひとまず会話が成立した。
「コラコラ、ただいまはどうした」
「……」
ぬ~べ~が玉藻の肩に腕を乗せたまま笑いかけると、玉藻はムッとした様子で顔をしかめ、まただんまりを決め込む。
「……」
あ、そうだ!ぬ~べ~、またもやからかう気です。
「お風呂にする?御飯にする?それともあ・た・し?」
クネクネとしながら、用意もしていない風呂やら飯を選択肢に出している…ツッコミでも入れば良いのだが、玉藻がそれをするはずもなく、例によって例の如く、ぬ~べ~は無視された。
「あのな!ちょっとは反応しろよ!」
「……」
目を合わせることすらしないで、玉藻は不機嫌そのものの顔でソファに座っている。
「……なあ、本当にどうしたんだ?何かあったのか?」
自分もソファの方に近付き、ソファの肘掛部分にもたれつつ問いかける。
やはり目もあわせようとしない玉藻。
それに対して無理にこちらを向かせようとはしないで、軽い口調で話しかける。
「何か嫌な事でもあったのか?」
「…正体がばれたかも知れません」
「え?お前が、妖怪だって、病院の人にばれたって言うのか?」
「別に私は何も害など及ぼしていないのに……」
「あ、ああ、そうだな。寧ろ役にたってるよな」
今まで向こうを向いていた玉藻がバッとぬ~べ~の方を向いた。
「そうですよね!!私は害をなすどころか、役にたっていますよね!?」
「え…ああ、うん」
あまりの勢いにぬ~べ~、目が点です。
「だったら何故、寄ってたかって苛められねばならんのだ!」
「え、苛めって…お前を?」
どうあがいても苛められる玉藻というのが想像できず、目が点状態でぬ~べ~は玉藻の額に手を置いた。
「熱でもあるんじゃないか?」
「無いです!う~…ああもう何で、何で何で何で何で」
ああ、さっきからひたすらブツブツ言ってたのはこれだったのか。ぬ~べ~はほんの少し合点がいったものの、やはりこの男がいじめにあうという状態が想像できなかった。……逆に、首謀者だというのならすんなりと納得できるのだが……。
「なあ、玉藻?」
「私が妖怪だっていうのがそんっなに問題ですか?それとも何ですか、人間どもの間に妖狐は人間社会に混乱と災いを招くものという認識が浸透しているというのですか!?私達の方が気付かないふりで騙されているのですか!?」
「いや…、それは、多分無いとおもうぞ?まず、落ち着こう。な?」
捲し立てる玉藻を宥めるぬ~べ~も軽く必死だ、何故ならさっきからポルターガイストが酷いからだ。
このままキレられて人体自然発火の妖狐ヴァージョンなんてモノを起こされでもしたら、大惨事は免れない。
「何をされたんだ?俺に聞かせてくれないか?」
「朝から、酷く監視されて…時には取り囲まれて、その上看護師達や患者がひたすらに同じようなチョコレートをニヤニヤしながら渡してくるのです」
「……」
「しかも直接来るだけじゃない。…ロッカーに靴入れに…もうそこらじゅうに詰めてあって…気持ちの悪い恋文に似せた手紙も……」
ゴチン。
ぬ~べ~は、自慢話に耐えかねて頭突きをした。
いや、玉藻は今日あった酷い体験を語ったのだが、ぬ~べ~からしたら自慢にしか聞こえない。
「何をするのですか!?」
「お前が取り囲まれてるのはいつもの事だろ?」
「…あんなものじゃ無かったんです!しかもいつも以上にしつこいし、それに数も多いし何より目つきが気持ち悪い!!それに男共は異様に冷ややかな目をしてジロジロ見るんですよ!」
「そりゃ羨ましいからだ。ったく…お前はもてない男の気持ちなんてわからないんだっ!」
「は?……人間はイジメをする時に呪いの真似事をしたり下駄箱にカラスの死体やゴミを詰めたりするというじゃないですか!!」
玉藻にとっては、同列だったらしい。
「馬鹿かっ!?何でカラスの死体とバレンタインチョコが同列なんだよ!?」
「バレンタインズデーのバレンタインは神父の名前です!それに苗字はチョコじゃない!」
「お前は、なんっでこう妙な事を知らないかな!今日は好きな人にチョコあげる日だろが!!」
「好きな人?フッ…鵺野先生、私は人間の愛というものがよくわからない。しかし!呪いをかけるのは愛する相手ではないでしょう!?」
妬ましいやら呆れたやらで、もう慰めてやる気が無くなったぬ~べ~は声を荒げている。
玉藻も、引き下がるつもりがないようで、更にこんな一言。
「フフフ……貴方に見えないとは言わせませんよ?」
「……」
「ねえ、見えているんでしょうこの生霊の数々!!!!」
「……なっなんの…話、かなっ?うん、俺、見えないなっ。今日は霊力が下がってるのかな~?」
すっと、玉藻はぬ~べ~の首筋に手を伸ばした。
「死にますか?」
「い、いや…あの、か、彼女達もさぁ…お前の事が好きなんだよ。な?想われてるんだな~いいなぁ~」
ぬ~べ~の首に手をかけたまま、玉藻は口元だけの笑みを浮かべた。
「鵺野先生。私はこれから『除霊』をします。邪魔、しないで下さいね?」
そして、首に手をかけるのを止めて首さすまたに手を伸ばす。
「ちょ!ちょっと待て!!玉藻!斬るのはマズイって、皆まだ生きてるんだし…ちゃんと戻ってもらえば…」
「先生。見えないのなら、私がパントマイムでもしていると思ってくだされば良いのですよ」
「す、すまん。本当は見えてる」
「そうですか」
玉藻は殺る気満々である。ちなみに、先程から続く壮絶なラップ音とポルターガイストの犯人は、ぬ~べ~の霊感によると玉藻である。しかし騒霊現象というのは引き金となっている本人は気付いていない事が多い。
…全く、犯人の霊力が半端ではないだけにぬ~べ~も生きた心地がしないが、この怒りが霊力の無いに等しいものに向かったらと思うとじっとはしていられなかった。
「玉藻!お前の力で斬ったりしたら、生きている彼女ら自体が傷付きかねないだろうが!呪おうとしてるんじゃない!悪意はないんだ!」
「では、このままこれらをここに置けと?私は絶対に嫌です」
説得は通じないか…と思ったぬ~べ~だったが、ふと気付く。
玉藻は別にチョコレート…と勢いあまって生霊を贈ってしまった女達を殺すのが目的ではないのではなかろうか。というか、ここにいて玉藻にこいつらが付きまとう、というのが嫌なだけなのか?
「……なあ、玉藻、お前はこいつらがここからいなくなれば良いんだな?」
「?ええ、そうです」
「じゃあさ、別にお前が除霊しなくても、俺が帰ってくれるように説得しても問題ないか?」
「何故貴方がそんな事をするのです?知らん振りをしていたという事は、別に私がそいつらのせいで嫌な目にあったり、危ない思いをしても良いと思っているのでしょう?」
首さすまたを持ったままではあったが、一応聞く耳をもってくれたようだ。
「我が左手に封じられし鬼よ,今こそその力を示せ!」
「!!」
ぬ~べ~が鬼の手を解放するのを見、反射的に身構える玉藻。こういう局面において彼の中では口論+鵺野先生怒る+鬼の手→襲ってくるというイメージがあるらしい。
「な…っ、今回は私は絶対間違ってない!取り憑きに来るの方が悪いです!」
ぬ~べ~が鬼の手を出して攻撃を仕掛けてくるというのがちょっとショックだったようで、語気が弱くなる玉藻。
「何言ってんだ。俺がこいつらを説得するって言ってるだろ?それに、お前の事、嫌な目にあえば良いとか、危険な目にあわせたいなんておも思っちゃいないさ」
スタスタと玉藻の横をすり抜けて、生霊の群れている方に向かうぬ~べ~。
「…むしろ逆なんだぞ」
背中を向けた状態で、少し小さな声で言うぬ~べ~。
「え?」
続いて玉藻がそちらを向くと、何だか既視感のある光景が広がっていた。
実際はこういう光景をちょうど生霊のいる方から見たのだが…。
「大事に思ってんの!」
「……それって、生徒と同じ位ですか?」
「しっ知らん!俺は除霊するんだから、邪魔すんなっ!」
「はい」
ぶっきらぼうに言うぬ~べ~の背を見ながら、玉藻は本日始めて柔らかに笑った。
強く強くなりたいけれど、何だか広君達が少し羨ましいな。
その後、生霊と鬼の手で対話するぬ~べ~に、すっかり機嫌を良くして首さすまたを仕舞ってきた玉藻が、手は出さないものの腕をからねたりなんだりと引っ付きまわしたせいで、ぬ~べ~は『玉藻先生振り向いて!』という気持ちから出来た生霊達の不興を買い、説得は困難を極めたという。
☆★☆そしてきっと除霊で疲れたぬ~べ~に一緒に寝ようだとか構いまくる玉藻。お前の為に疲れたんだから寝かしてやれよ(笑)★☆★
オマケ
15日朝
ぬ『ふぁ~…ったくもう、何でこう機嫌よくなった途端に……ってあれ?いない』(横に寝ているはずの玉藻がいないのに気付く)
玉『あ、先生。折角作ってくれたものですから、捨てるのも勿体無いので食べませんか?』(看護師さん達のチョコを見せて笑っている、超御機嫌)
昨日と言ってる事もやってる事も全然違う玉藻さん(笑)
ぬ『ん…ああ。凄いよなあ…俺なんて今年は一つも無かったってのに…』
玉『どうぞ』(チョコを一つつまんでぬ~べ~の口に、それから自分も一口)
ぬ『ん』(また恥ずかしい事を……と思いつつ食う)
ぬ・玉『……!?』
ぬ『うぇ…!何だこりゃ!?』
玉『髪の毛?』
ぬ『手作りってこういう事もあるんだな(汗)』
そして別のを食べてみる二人。
ぬ・玉『!!』
そしてまた別の…。
ぬ『…ごめん、俺、もういらない……』
玉『…おのれ……やはり呪いの類かっ!私の事をチョコレートの何らかの成分の過剰摂取で殺そうとしていたんだ!!』
ぬ『え!?いや、違う…と思うぞ!?』
玉『じゃあ、何でこう手作りのものに悉く毛が入っているんです!?』
ぬ『な…なんでだろう!?』
玉『この私を呪おうとは…許せん』
ぬ『ま、待て!き、きっと誤解だから!』
そして朝っぱらから大乱闘。二人とも遅刻したそうな。
…本命チョコに、髪の毛を入れておくと両想いになれるというオマジナイ…クェなら、キモッ!と思って嫌いになるね。と思ったのでこんな感じになりますた。
完全にギャグですね。玉藻先生、来年くらいまでには学習してくださいって感じです。でも玉藻先生ならばこの位の誤解はしてくれるんじゃないかと期待(ワラ)
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