うふへ…玉藻×石蕗丸です。うふへへはは。
ここでは石蕗丸は甘党じゃないってかチョコが苦手だと嬉しい。玉藻はチョコは普通って感じ。
『玉藻が作った』生クリームのケーキ(油揚げ入り)はホールで食えるけどチョコはちょっと…って感じでも良いか。
後…狐だし、妖狐の平熱が人間より高いとなおよろしい。
☆★☆チョコチョコ甘ぁあああっ!!!★☆★
「そこの娘!」
忍者装束に身を包み、狐耳と尻尾を付けた長髪の美少年が往来でセーラー服にルーズソックスの美少女に土下座している。
ディープな趣向のプレイなのか何かの罰ゲームかバラエティ番組の撮影か…そんな光景が二月十四日の童守町で繰り広げられていた。
「?」
「バレンタインチョコレートとやらの製法を、御教授賜りたい!!」
「へ?何言ってんのって感じ?」
「とぼけるなっ…今しがた、隣の娘と話していたではないか!誇り高き妖狐が恥辱を忍んで人間の小娘ごときに頭を垂れているのだ…教えてくれても良かろう!」
「はぁっ!?妖狐!?」
美少女、いずなは単語レベルで美少年の言っている事が解らなかった。
美少年、石蕗丸は自分の様な話し方をするのは既に一般的でない事を知らなかった。
いずなは勉強嫌い故に、学業の面で言えば頭が悪く、石蕗丸は世間が狭いが故にか天然物かは定かでないが頭が固かった。
絶望的に噛み合わない『会話』(押し問答とも言う)が、ようやく世間一般で言う会話になり、互いに意思が通い、交渉が成立する頃には日が暮れていた。
そしていつの間にかとも子は逃げていた。
「…私がどうやってチョコ作るかををあんたに教えたらいいって感じ?」
「うむ!」
「マジ最初からそう言えって感じぃ…っていうか~何、あんた好きな子いるの?」
「さっ…左様な事は貴様には関係ないっ!」
「じゃ教えなーい」
「きゅ~~~~!」
……
そしてよく分からない叫びと暫しの躊躇いの後に結局色々と白状した石蕗丸は、いずなの部屋にてチョコを作った…正確に言えばいずなの格安義理チョコ作りの人足にされた。
「うぐ…何と強烈な臭気…されど、玉藻様の御為なれば…ゼェハァ」
「あはは、あんたその『タマモ様』っての大好きなんだ?」
「うむ。とても素晴らしいお方なのだ…心より敬愛している。それにお美しいし、お優しい方だしそれに…」
「ふーん。妖狐って皆性悪かと思ったらそうでもないんだね。私もその人見てみたいって感じぃ」
「なっ!いくら管狐と仲が良いと言っても、そなたのような下賎の小娘が易々とお目通りするなどっ…」
「よく分かんないけどお姫様かなんかって感じぃ?」
「…そうだな。そう言っても過言ではないかも知れぬ。娘、そなた人間の癖にうまい事を言うなっ」
モジモジとしながらペタペタとチョコを丸める石蕗丸と、和尚に手作りの代償として何を貢がせるか考えつつ恋バナを聞いているいずな…彼等がめいめいに思い浮かべるタマモ様は似ても似つかないものだったのは言うまでもない。
「はい、後は冷やして完成!」
パタンと冷蔵庫を閉めて荒いものをしている間、石蕗丸は幸せ一杯だった。
人間の町で長く暮らしていらっしゃる玉藻様ならばきっと、この国でバレンタインに何をするか御存知だろう。自分も知っている事がわかったら誉めて下さるかも知れない。
谷の皆は面白いからとりあえず当たって砕けろとか、ヌエノに化ければ良いんじゃないかとか、お…押し倒せとか…他にも色々とアドバイスをくれたが、自分はやはり長老が言って下さった『人間の祭に便乗してみる』というのが素敵な気がした。
玉藻様も素敵だと思って下さると良いのだが…。
「チビ狐!できたよ。はい、あんたの分」
ニコニコと想いを廻らせていた石蕗丸にいずながチョコを手渡す。
「でも何か変なの…あんたがやったやつだけちょっと溶けたみたいになってる」
「おおっ…感謝するぞ娘!」
「私も助かったし~、お互い様みたいな?っていうか…頑張ってきな!ちゃんとお姫様に気持ち、伝えんだよ」
「了解した!」
グッと握手を交した二人はそれぞれ部屋を後にした。
……
ぎゅっとその手にチョコレートを握り締めて石蕗丸は駆けた。
そして、生憎帰宅していなかった玉藻が戻るまで部屋にて待つ事にした。
ぎゅっとその手にチョコレートを握り締めたまま。
「玉藻様、医者の仕事が長引いているのだろうか…うう、それにしても臭…あああっ!?」
生クリームが使われた手作りのチョコレートは、お口で溶けて手で溶けないなんて優しい仕様ではない。まして、走ってきた後なのだ…体温は平常時よりも高い。
チョコレートは無惨に溶けていた。
「ううっ、なんたる失態…これでは滴って床を汚すのみ、とても玉藻様に渡すわけには行かぬ…」
石蕗丸の大きな目に涙が滲む。
妖狐も悲しい事があれば悲しいし、悔しい事があれば悔しい。
茶色く汚れた左の掌を見つめ、石蕗丸は声を殺して泣いていた。
声を殺すのに苦心するあまり、近付いてくる足音には気付かなかった。
ガチャ。
「石蕗丸?」
ドアが開き、部屋の主が帰ってきた。玉藻はマンションに近付いた時点で石蕗丸の気に気付いていたので、不思議そうにはしているが驚く様子はない。
「うわっ!たた玉藻様…っ!!」
抱えていたチョコレートの山を、玄関先に無造作に置いて靴を脱ぐ玉藻。
玉藻の何気無い仕草で座り込んだ自分の視界に入った固体。
人間の女達が用意したのであろう、自分の掌を汚している液体よりも遥かに出来の良い品々は、石蕗丸の心に刺さって痛かった。
「…!泣いているのか?一体何があった?」
石蕗丸のどうにも止められなくなった涙を見て、玉藻が険しい顔をする。
石蕗丸の両肩を掴む玉藻の口調には泣かせた犯人はただではおかぬ、そんな響きがこもっていた。
「誰かに襲われてここに逃げ込んだのか?」
「ぐずっ…いいえ…」
「では何があった?石蕗丸、言え」
「っ…ただっ、玉藻様に…ぐすっ、今日はバレンタインだからっ…チョコ、レートを贈らせ…て頂こうと」
「…それで、何故泣くのだ?」
「持っていたら…っ溶けてしまいました」
そう答えると、先ほどまではしゃくりあげるだけだったが涙がまた溢れ始める。
玉藻は、石蕗丸ふるふると震える左手を見、戸を開けた途端にチョコレートの臭いがきつくなったのは気のせいではなかったかと心の中で呟いた。
「石蕗丸、見せて」
玉藻は石蕗丸の手をとり、溶けたチョコレートを見て、小さく笑う。
「作ったのか?」
「はい…・親切な娘が教えてくれました」
「ふうん、しかし私は今日恐ろしい量のチョコレートを贈られてな…気分があまりよくない」
そう言うと、玉藻はその言葉にしゅんとしてしまった石蕗丸の左の掌に顔を寄せ、そこについたチョコレートを舐めとった。
「え!?玉藻さ…ま??」
「お前も道連れだ」
「は?どういう意…む!!」
小さな体を抱き寄せて、顔を近付けて囁いた玉藻の言葉が飲み込めず、質問をしようとした石蕗丸は最早黙るしかなくなった。
口を塞がれては問いもかけられない。
口腔から鼻腔に満ちる甘ったるいチョコレートの香りと、抱きしめられて伝わる体温と、止まるところを知らぬ心拍数の上昇と、己の唇にふれる玉藻の唇の感触と……石蕗丸の脳髄に届く刺激の全てが彼の頭をクラクラとさせた。
「んん………」
きゅう~~~~~~~~。
「む?石蕗丸?」
ちょっといじめるだけのつもりだったが……もしかしてやりすぎただろうか。腕の中でのびている石蕗丸を眺めながら玉藻は思った。
「石蕗丸?」
石蕗丸は、真っ赤な顔をしたままふにゃふにゃと、ああ玉藻様ぁ~…等と呟いている。
「……石蕗丸!」
ちょっと心配になった玉藻は石蕗丸の頬を軽く叩きながら名前を呼ぶ。
「おーい……大丈夫か?石蕗丸!」
「はっ!……~~っ!玉藻…様」
「ああ、良かった」
グルグル回していた目を開けた石蕗丸を見て、玉藻はホッとしているが、石蕗丸はそれどころではない。
もはや口に残ったチョコレート臭など気にならなかった。
だって、だって、だって!!!自分は今、もしかして、玉藻様と……玉藻様と接…あああ、とても言えませぬ。
心臓はもう何か別の生物のように脈を打っている。
「……石蕗丸、その、すまなかった」
「あ、いえ、っあの…」
「お前がチョコレートが苦手なのを知っていながら大人げの無い事を…」
はい?玉藻様?照れくさそうになさるのはよいのですが、おっしゃる事がなにやらムードに欠けてはいる様に感じるのはこの石蕗丸の勘違いでありましょうか?
「本にすまなかった。これからあの大量のチョコレートをどうにかせねばならないと思うとだな……」
ええと、つまりその、あれは八つ当たりであったのでしょうか。
「……あの、では先程は接吻をなさったわけでは…」
「せ…っ、え…あ、いや、その…あ、あれはあれ、は」
どう考えても。ディープキッスでありました。
「……」
「……」
「……石蕗丸、すまなかった」
「いいえ!!良いのです、勘違いでもとても……嬉しゅう御座いました」
沈黙の末、きゅっと石蕗丸を抱きしめた玉藻を、腕の中から顔を出した石蕗丸はじっと見つめた。
愛おしく思うこの気持ちを伝えられただろうか……。
「石蕗丸……」
玉藻の目線が揺れた。
「もう一度、しても良いか?」
「…はい」
この日、石蕗丸はチョコレートが少しだけ、好きになった。
☆★☆あんむぁぁぁ~クハァけはぁなアホ二匹、絶対果糖でできてるよこいつら★☆★
ついでに照れくさすぎてパニクッた今後の二匹の行動…
「あ、つ、石蕗丸…これ(チョコ)、食べないか?一人では、食べられそうにないし!な?」
「わっわあ!美味しそうです~っはは…は(うっ、しまったこれでは食べねばならない…!!)」
無意識は行動についつい出てくる……石蕗丸が手作りチョコくれようとしてたのが嬉しくて、ついついやっちゃった玉ちゃんでした。
はい長くてすんません。絡み絵なんかがあっさり描けたのはきっと愛のせいです。この二匹の掛け算メジャーにならんもんかいな。
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